ボディービルダーで誰が最初にドラッグを使い始めたかは正確にはわからない。1950年代からカリフォルニアの一部のビルダーの間ではテストステロンやダイアナボールが、ハードトレーニングを行うのと、筋量獲得の秘密とされていた。60年代に入れば、プロビルダーはアナボリックステロイドをプロテインドリンクを飲むがごとく、摂取していた。70年代になれば一般トレーニーの間でもステロイドを使うのがビルドアップの常識とされていた。 しかし当時は主にダイアナボールがメインで、注射剤の知識もあまり普及はしていなかったようだ。それに使用量も現在と比べれば、健康的な量であったであろう。効果的なスタックやサイクルは当時としては秘密の方法であり、価値ある情報であった。
70年代後半から80年代前半にはステロイドの知識や、効果的な使用方法が広まり、60年代、70年代前半に比べ使用量もかなり増加した。これを証明するように、ビルダーのサイズもかなり大きくなってきた。80年代前半と60、70年代前半のビルダーを比較すれば一目瞭然だろう。トレーニング理論や栄養学の発達も考えられないことはないが、劇的な効果をもたらすレベルではない。サプリメントの発達? この時点ではクソまずいプロテイン、ビタミン剤、アミノ酸程度しか存在していない。プロホルモンの「アンドロ‥‥。何々」もまだまだ先のことである。
80年代も後半になると当時では筋量アップを促すドラッグは全て出尽くした感かあり、他人と差をつけるのが難しくなった。この中で単純な理論「多ければ多いほど良い」に基き、とんでもない量を使う方法が主流になった。テストステロンを一日に1,000mg-2,000mg程度使用したり、何種類ものステロイド、それこそ入手可能なもの全てをスタ ックするなど無謀ともいえる行動にでてしまった。当時大量に使用可能な背景にはステロイドの価格がかなり安かったのも理由であろう。例えば、10ドルでテストステロン10ccを入手出来たようだ。これより安い場合もあったかもしれない。現在では1ccが10ドルぐらいが相場であろう。無数のドラッグディーラーがあり、激しい価格競争のためにステロイドの値段が安くなったのであろう。しかも高校生でも(現在でもそうだが)ステロイドを使えたぐらいなので、決して高くはないというより、知れている値段だったのであろう。大量投与の結果、副作用も強く、さまざまな社会問題も起こり、ついには1990年にアナボリックステロイドは政府が統制すべき物質の第3カテゴリーに当てはめられてしまった。つまり違法物質に公認されてしまった。
違法とはいえ建前の話で、使用者が減るばかりかむしろ増加している。理由はステロイドが筋量作りには非常に効果的だからである 。
80年代後半でビルダーのサイズは限界かに思えたが遺伝子工学の発達のおかけで合成ヒト成長ホルモンが登場し新たな肉体の発達が始まった。さらに一段と効果的なステロイドの使用法も研究されより効果的に、大量に、長期間使われ始めた。
そしてステロイド、成長ホルモン、インスリンの強力なスタックでビルダーはぐんとサイズを増してしまった。80年代後半から90年代前半のビルダーと現在のビルダーを比較してもらいたい。同じ個人でみても、例えばリー・プリーストなどプロに成り立ての90年代前半から現在では全く別人のようにサイズが違う。とてつもないサイズをプロビルダーは獲得してしまった。果たして巨大化に歯止めがかかるのであろうか。現在プロではシリコンを詰めたり、シンソールを注射して、おろかにも筋肉を肥大させている。この行動から現在は、もはやサイズの限界に到達したように思える。
確かに薬物で筋肥大をさせるのはほぼ限界であろう。今後考えられるのは、遺伝子操作であると思われる。ヒトゲノムが解析された現在そう難しい事ではないことだ。
アメリカのペンシルバニア大学では筋発達を促す遺伝子をつき止めており、マウスの実験では成功しているようだ。この発達を促す遺伝子をマウスに注入したところ通常の2倍の筋肉のサイズになったという。もちろんトレーニングなど一切行っていない。要は、筋量が通常の2倍に自動的に設定されるのである。
これを人間に応用したらどうなるのか。遺伝子操作、ハードトレーニング、そしてステロイドや成長ホルモンなど各種アナボリックホルモンの投与。間違いなく、現在のミスターオリンピアにでさえ、サイズで圧倒できるであろう。遺伝子操作がポピュラーになったら、20年、30年後には日本でも街のマニアックなジムには2, 3人ドリアンやロニー・コールマン並のサイズを持ったトレーニング愛好家があらわれるかもしない。そして彼らのサイズではその時代のプロビルダーには全く歯が立たないことになっているであろう。おまけに「リー・ヘイニーはかなり細かった」などトレーニングの間に話合っているかもしれない。このようなことからまだまだサイズの限界には達していないかもしれない。
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